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絞り加工の精度に限界を感じたら…高精度・コストメリットを実現する工法を解説

基板や部品を取り付けるための高さを確保するうえで、「絞り加工」は一般的な工法の一つです。ただ、絞り加工には課題も多く、対策に苦慮している製造業様も少なくないでしょう。
例えば…
- 電子部品との隙間を確保したいのに、絞り加工ではコンマミリ単位の精密な寸法が出ない
- 加工時に発生するわずかな歪みが、組み立て後の安定性を損なってしまう
- 試作品や少量生産だと金型費用が高くつき、コストメリットが見合わない
- 高さを出すためだけに板金全体の形状を見直さなければならず、設計の自由度が奪われている
精度やコスト、設計上の制約といった絞り加工の課題を解決するには、「工法転換」も検討したいポイントです。
この記事では、絞り加工に代わる新たな選択肢として、セルフクリンチングファスナーがもたらす「高精度」「コストメリット」「設計自由度の向上」について、具体的な比較を交えながら詳しく解説します。現状の工法に限界を感じている設計・開発担当者の皆様にとって、課題解決のヒントが見つかるはずです。
セルフクリンチングファスナーが絞り加工の代替工法になる理由
セルフクリンチングファスナーとは、圧入によって母材となる板金へ強力に固定できる締結部品です。英語では "Self-Clinching Fastener" と表記され、「自ら(Self)」「固着する(Clinching)」性質を持っています。
仕組みは非常にシンプルです。まず、取り付けたい板金(母材)に、ファスナーのサイズに合わせた下穴を開けます。その下穴に、セルフクリンチングファスナーを設置。最後に、プレス機などで圧力を加えれば完了です。
このプレスによる圧入工程が、セルフクリンチングファスナーの性能を決定づける重要なポイントです。ファスナーの締結ですが、上から加圧することでギザギザのローレット部が母材に食い込みます。
ローレット部の下にくびれのような溝が設けられており、加圧の際その溝に母材の金属が塑性変形し流動することで締結します。
その結果、ファスナーは母材と一体化し、軸方向への強い引抜力と、回転方向への高いトルク抵抗を持つ、信頼性の高いナット(またはボルト)として機能します。
ここで、絞り加工との構造的な違いを明確にしておきましょう。
絞り加工は、板金そのものをプレス機で押し込み、変形させることで高さを生み出します。いわば、母材自体を盛り上げて目的の形状を作る工法です。
一方のセルフクリンチングファスナーは、母材である板金は平面のままです。その平面に、別途精密に製造された部品(ファスナー)を後から取り付けることで、目的の高さを確保します。
この「母材を変形させるか」「させないか」という根本的な構造の違いが、後述する精度やコスト、設計自由度といった面での大きな差となって現れるのです。
【徹底比較】絞り加工 vs セルフクリンチングファスナー
絞り加工にも、セルフクリンチングファスナーにも、得意な領域と不得意な領域が存在します。自社の製品や生産体制において、どちらがより最適な選択肢となるのかを判断するうえで、以下の項目で比較します。
| 絞り加工 | セルフクリンチングファスナー | |
|---|---|---|
| 寸法精度 | △高精度は困難 | ◎コンマミリ単位の精度を実現 |
| 対応数量 | ○大量生産向き | ◎少量生産でもメリット |
| コスト | ○部品コストは不要 | △部品コストは発生 |
| 強度 | ○母材と一体 | ◎高い締結強度を発揮 |
| 設計自由度 | △板金形状の変更が必要 | ◎平面のまま高さを付与可能 |
| 総合評価 | △精度が求められる場面では不向き | ◎精密さが求められる場合に優位 |
いくつかの項目について、詳しくみていきましょう。
寸法精度
寸法精度の項目では、セルフクリンチングファスナーに軍配が上がります。
絞り加工は、プレス時の熱や応力、材料の厚みや硬度のばらつきによって生じる「スプリングバック(加工後に形状がわずかに戻る現象)」の影響を受けやすく、コンマミリ単位での安定した高さ管理は極めて困難です。
その点、セルフクリンチングファスナーは部品自体が高い精度で製造されているため、圧入するだけでその精密な寸法を板金に付与できます。
対応数量・コスト
対応数量とコストは、密接に関連します。
絞り加工は、一度金型を製作すれば、あとは材料費だけで加工できるため、大量生産においては圧倒的なコストメリットを発揮します。ただし、金型製作には多額の初期投資が必要です。試作品や年間数百~数千個レベルの少量生産だと、金型費が製品単価を押し上げる大きな要因となります。
一方のセルフクリンチングファスナーは金型が不要なため、初期投資を大幅に抑制できます。部品コストは発生しますが、少量生産においてはトータルコストで優位に立つケースも少なくありません。
設計自由度
絞り加工は板金の一部を「絞る」ため、加工部分の周辺に応力が集中し、歪みが発生する可能性があります。このため、他の部品との位置関係や、板金全体の強度を考慮した設計が求められます。
セルフクリンチングファスナーは、母材を平面のまま扱えるため、必要な場所にピンポイントで高さを追加できます。その結果、設計の制約が少なくなり、部品配置の最適化や製品の小型化・薄型化に大きく貢献します。
セルフクリンチングファスナーがもたらす3つのメリット
上記の比較表からもわかるように、どちらか一方が絶対的に優れているというわけではありません。
しかし、「精密な寸法」が求められる製品や、「少量生産」でのコスト効率を重視する場合には、セルフクリンチングファスナーが極めて有効な解決策となることがお分かりいただけるでしょう。
ここで、セルフクリンチングファスナーの具体的なメリットを深掘りして解説します。多くの精密機器メーカーが、絞り加工からセルフクリンチングファスナーへ工法を切り替えている理由は、次の3点に集約されます。
【メリット1】コンマミリ単位の高精度を実現できる
近年の電子機器は小型化・高性能化が著しく、内部には部品が高密度で実装されています。基板と筐体、あるいは部品同士のクリアランス(隙間)は、コンマミリ単位で厳密に管理されなければなりません。わずか0.1mmの高さのズレが、ショートやノイズ発生、あるいは組み立て時の干渉といった致命的な不具合を引き起こす可能性があるからです。
このようなシビアな要求に対し、絞り加工で安定した精度を保つことは容易ではありません。スプリングバックに加え、材料のロットごとの微妙な特性の違いも、加工寸法に影響を与えます。熟練の技術者が細心の注意を払っても、常に一定の品質を維持するには限界があります。
その点、セルフクリンチングファスナーは、部品そのものが一貫した品質管理のもとで、極めて高い寸法精度で製造されています。例えば、高さ公差±0.05mmなども可能です。この精密な部品を、指定された下穴にプレスで圧入するだけで、誰が作業しても、いつでも同じ高さを正確に再現できるのです。
安定した高精度は、製品の品質や信頼性を飛躍的に向上させます。組み立て工程での微調整が不要になり作業効率が改善されるだけでなく、市場での不具合発生率を低減させる効果も期待できるでしょう。最終的に製品全体の価値を高めるのに直結することも、大きなメリットの一つです。
【メリット2】少量生産におけるコストメリット
「開発段階の試作品を数個だけ作りたい」「顧客の要望に合わせたカスタム品を月数十個のロットで生産したい」といった多品種少量生産のニーズは、近年ますます増加傾向にあります。こうした状況で大きな課題となるのが、絞り加工に不可欠な「金型」の存在です。
絞り加工用の金型は、設計から製作、そしてメンテナンスに至るまで、多額の費用と時間が必要です。生産数量が数万個以上に及ぶのであれば、その初期投資は十分に回収できるでしょう。しかし、生産数量が数百、数千個の場合、その金型費用が製品一つひとつの単価に重くのしかかり、価格競争力を失う原因となりかねません。
セルフクリンチングファスナーは、この「金型問題」に対する明確な答えとなります。専用の金型は一切不要。必要なのは、汎用的なプレス機とファスナーを圧入するためのシンプルなパンチとダイだけです。これらの工具は、多くの場合、既存の設備で対応可能であり、初期投資を劇的に抑えられます。
もちろん、ファスナー自体の部品費用は発生しますが、高額な金型費が不要になるメリットは、それを補って余りあるものです。特に、開発段階での度重なる仕様変更にも、金型を作り直す必要がないため、柔軟かつ迅速に対応できます。市場投入までのリードタイム短縮にも貢献し、ビジネスチャンスを逃しません。
部品コストという目先のランニングコストだけでなく、金型費という「イニシャルコスト」を含めたトータルコストで比較検討すれば、少量生産におけるセルフクリンチングファスナーの優位性は明らかです。
【メリット3】板金形状を変えず、設計自由度を向上
設計者にとって、自らのアイデアを具現化するうえでの「制約」は、常に悩みの種です。絞り加工を選択した場合、それは時として大きな設計上の制約となることがあります。
絞り加工を施すと、その周辺の板金には必ず応力がかかり、目には見えないレベルの歪みやひずみが発生します。このため、絞り部分のすぐ近くに別の部品を配置したり、平坦度が求められる部品を取り付けたりすることが難しくなるケースがあります。また、絞りの高さや形状によっては、板金全体の剛性にも影響を及ぼすため、それを考慮した全体設計が不可欠です。
一方、セルフクリンチングファスナーの最大の特長は「母材である板金を平面のまま扱える」という点にあります。圧入するのは下穴を開けたごく一部のエリアのみ。板金全体に与える影響は最小限に抑えられます。基板や電子部品を最も効率的な位置に、干渉を気にすることなく配置できるため、設計の自由度は飛躍的に向上するでしょう。
また、筐体の強度計算がシンプルになり、より薄く、軽い板金材料を選択できる可能性が広がります。
設計変更で高さや位置を変えたくなっても、CADデータ上で圧入位置の座標を変えるだけ。金型の修正といった物理的な手戻りは発生せず、開発プロセスを大幅に効率化できます。
このように、母材に余計な変更を加えないというシンプルさが、結果として製品の小型化・薄型化、そして開発スピードの向上といった、現代の製品開発に不可欠な価値を生み出すのです。
導入事例・活用シーン
セルフクリンチングファスナーは汎用性が高く、私たちの身の回りのさまざまな製品に採用されています。実際にどのような製品や分野で活用されているのか、具体的なシーンを見ていきましょう。
電子機器・通信機器分野
電子機器・通信機器分野は、セルフクリンチングファスナーが多く活用される領域です。サーバ、パソコン、通信基地局、計測機器などの内部に使用されています。
具体的には、プリント基板(PCB)を筐体に固定し、他の部品との間に一定の空間(高さ)を確保するスペーサーとして使用されます。絞り加工では難しい精密な高さ管理によって、部品同士の電気的な干渉を防ぎ、製品の安定動作に貢献します。
また、パネルの裏側に取り付け、表からはネジ穴が見えない美しい外観を実現する「ブラインドナット」としての役割も担います。
自動車・輸送機器分野
高い信頼性と耐久性が求められる自動車業界でも、セルフクリンチングファスナーの採用は増加しています。主に、カーナビやオーディオなどの電装品、ECU(電子制御ユニット)、バッテリー周辺部品などに活用されます。
特に溶接が難しい薄板や、熱による影響を避けたいアルミ材などへのナット取り付けは、セルフクリンチングファスナーの得意とするところ。確実な圧入により、車両の厳しい振動環境下でも緩むことのない、高い締結信頼性を確保します。
軽量化が求められる部品において、板厚を上げずに強度を確保する手段としても有効です。
医療機器分野
内視鏡、超音波診断装置、血液分析装置などの精密機器では、絶対的な精度と信頼性が不可欠です。機器内部の複雑な機構を、設計通りの位置で正確に組み立てるために、セルフクリンチングファスナーが活用されます。
絞り加工で発生しうる金属粉(バリ)の脱落は、精密な医療機器にとっては致命的です。圧入方式のセルフクリンチングファスナーは、こうしたコンタミネーション(汚染)のリスクが極めて低い点も、この分野で評価されています。
その他の産業分野
ほかにも、半導体製造装置、FA(ファクトリーオートメーション)関連機器、航空・宇宙関連機器など、精密な板金加工が求められる産業で、その活用が広がっています。
これは、セルフクリンチングファスナーが提供する「高精度」「コストメリット」「設計自由度」という価値が、多くの産業に共通する課題を解決する普遍的なソリューションであることを証明しています。
工法を見直して、設計と品質の課題を解決しませんか?
本記事では、絞り加工が抱える「精度」「コスト」「設計自由度」の課題を解決する代替案として、セルフクリンチングファスナーをご紹介しました。
母材を変形させる絞り加工に対し、高精度な部品を圧入するセルフクリンチングファスナーは、精密さが求められる製品や金型費が課題となる少量生産の案件で、絶大な効果を発揮します。また、安定した品質は製品の信頼性を高めますし、金型不要という特長は開発スピードとコスト効率を改善します。
現状の工法に少しでも限界や課題を感じているのであれば、セルフクリンチングファスナーは検討する価値のある、非常に強力な選択肢となるはずです。
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