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アルミや薄板のバーリング加工の課題を解決する「セルフクリンチングファスナー」とは?

アルミや薄板などに「バーリング加工」を施すとき、以下のような課題に直面した経験はないでしょうか。
- アルミなどの柔らかい素材に施すと、ねじの強度が足りず、締め付け時にねじ山が潰れてしまう
- 薄い板材だと十分なねじ山の数を確保できず、締結力が不足して緩んでしまう
- 精密な位置精度が求められるのに、加工時の歪みで寸法が合わない
- 軽量化や薄型化を進めたいが、バーリング加工では強度的な限界があり、板厚をこれ以上薄くできない
これらの課題は、バーリング加工という工法の構造的な限界から生じるものです。バーリング加工は、母材そのものを変形させてねじを形成するため、母材の材質や板厚によってはねじの強度に影響を与えることがあります。
バーリング加工の課題を解決するには、「工法を変える」のも選択肢の一つです。そこで本記事では、従来のバーリング加工が抱える問題を根本から解消し、製品の品質向上とコスト削減を両立する「セルフクリンチングファスナー」について、その仕組みや具体的なメリット、活用事例までを詳しく解説します。
バーリング加工の代替工法「セルフクリンチングファスナー」とは?
セルフクリンチングファスナーとは、金属板にねじを取り付けるための締結部品の一種です。この部品をあらかじめ開けておいた下穴にプレス機で圧入すると、部品の周囲にあるローレット(ギザギザの歯)が母材に食い込み、しっかりと固定されます。その結果、薄い板材やアルミニウムのような柔らかい素材にも、高い強度を持つねじを取り付けることが可能になります。
従来のバーリング加工の場合、薄い板や柔らかい素材では十分なねじ山を確保するのが難しく、締結力が不足する原因となっていました。
これに対してセルフクリンチングファスナーは、母材を変形させるのではなく、独立したねじ部品を「取り付ける」という全く異なる発想に基づいています。鉄やステンレスといった高強度な材質で作られたねじ部品を母材に圧入するため、母材の材質に依存することなく安定した高い締結力を得られるのです。
セルフクリンチングファスナーの最も大きな特徴は、プレス加工によって部品が母材と一体化し、溶接や接着といった他の接合方法を用いることなく、強固なねじ部を確立できる点にあります。圧入の際に、母材の金属が部品の溝に流れ込む「塑性流動」という現象を利用して固定されるため、一度取り付ければ、緩んだり脱落したりする心配はほとんどありません。
製品の設計において、ねじの強度は安全性や信頼性に直結する極めて重要な要素です。セルフクリンチングファスナーは、この強度に関する課題を根本から解決するソリューションと言えます。
バーリング加工とセルフクリンチングファスナーを徹底比較
バーリング加工とセルフクリンチングファスナーには、どのような違いがあるのでしょうか。それぞれの特徴を、以下の比較表にまとめました。工法選択の判断材料として、ぜひ参考にしてください。
| バーリング加工 | セルフクリンチングファスナー | |
|---|---|---|
| ねじ強度 | △母材の材質・板厚に依存 | ◎高強度なねじを確保可能 |
| 対応母材 | △アルミ等の軟質材は不向き | ◎アルミや薄板にも最適 |
| 加工精度 | △高精度な位置決めは困難な場合も | ◎精密な寸法精度を実現 |
| コスト | ○部品不要で安価 | △部品コストは発生 |
| トータルメリット | △強度不足によるトラブルリスク | ◎品質向上・軽量化に貢献 |
バーリング加工の場合、部品が不要なため初期コストを抑えられるという利点があります。しかし、ねじの強度や対応できる母材、加工精度には限界があり、これが製品の品質問題や設計上の制約につながる可能性があります。
一方のセルフクリンチングファスナーは、部品コストが発生しますが、ねじ強度、対応母材の多様性、加工精度のいずれにおいてもバーリング加工を大きく上回ります。特に、製品の品質向上や軽量化、薄型化といった付加価値を追求する場合には、非常に有効な選択肢といえるでしょう。
セルフクリンチングファスナーがもたらす4つのメリット
セルフクリンチングファスナーには、多くの利点があります。なかでも、設計・開発担当者の皆様にとって大きな魅力となる4つのメリットを、深く掘り下げて解説します。
【メリット1】アルミや薄板でも高強度なねじを実現
アルミニウムのような柔らかい素材や薄い板材で製品開発を進めるとき、設計・開発担当者の課題のひとつが、ねじの強度確保です。
バーリング加工の場合、母材自体を延ばしてねじ山を形成するため、柔らかいアルミニウムや板厚の薄い母材だと、十分な強度を持つねじ山を作れません。その結果、締め付け時にねじが破損したり、使用中に緩んでしまったりといったトラブルが発生するリスクを抱えています。
この課題を、根本的に解決するのがセルフクリンチングファスナーです。母材にねじ山を作るのではなく、鉄やステンレス鋼といった硬い金属で作られたファスナー(ねじ部品)を母材に圧入して固定します。つまり、母材の材質や厚さに関わらず、取り付けたファスナーそのものが持つ高い強度をそのまま利用できるのです。
筐体が柔らかいアルミニウムでも、高強度なステンレス製のセルフクリンチングファスナーを取り付けることで、締め付けトルクに対する高い耐久性を確保できます。その結果、ねじの破損や緩みといった信頼性に関わる問題を未然に防ぎ、製品全体の品質を向上させることが可能になります。
製品の安全性が最優先される医療機器や、振動の多い環境で使用される輸送機器などにおいて、極めて大きな利点です。
【メリット2】製品の軽量化・薄型化に貢献
製品の軽量化や薄型化といったニーズは、年々高まっています。こうしたニーズに対して、バーリング加工を前提とした設計では、ねじ強度を確保するために一定の板厚が必要なため、製造には限界があります。
板を薄くすると、バーリング加工で形成できるねじ山の数が減少し、必要な締結力が得られなくなります。強度を優先する場合は不要な厚みを持たせたり、アルミニウムのような軽量素材の採用を断念したりするケースも少なくありません。
セルフクリンチングファスナーは、こうした設計上の制約を取り払います。例えば、強度を確保するために2.0mmの鉄板を使っていた部品を、1.0mmのアルミニウム板へセルフクリンチングファスナーを取り付ける構成に変更することも可能です。
この工法転換によって、大幅な軽量化が実現できます。また、製品全体が軽くなることで、燃費や電力効率の向上、携帯性の向上といった性能面のメリットが生まれます。さらに、材料費の削減にも繋がりコスト競争力を高める効果も期待できるでしょう。
セルフクリンチングファスナーは、強度と軽量化の要求を両立させる技術なのです。
【メリット3】高い寸法精度で設計をサポート
製品の小型化や高密度化が進む現代において、部品の取り付け位置にはコンマミリ単位の精密さが求められます。しかし、バーリング加工や、それに類似した絞り加工では、高い寸法精度を安定して確保することが難しい場合があります。
母材に大きな力を加えて塑性変形させるバーリング加工では、加工点の周囲に応力が発生し、薄い板材などでは意図しない歪みや反りが生じることがあります。その結果、ねじ穴の位置が設計値からずれてしまい、組み立て工程での部品干渉や最終製品の品質ばらつきの原因となることがありました。特に、複数のねじ穴を近接して配置するような設計では、この問題はさらに顕著になります。
セルフクリンチングファスナーは、圧入時に母材へ与える影響が極めて小さいことも特徴の一つです。あらかじめ高精度な機械で開けられた下穴に対して、ファスナーを垂直にプレスするだけで取り付けが完了。バーリング加工のように母材を大きく引き延ばす工程がなく、加工時の歪みや反りの発生を最小限に抑えられます。
また、図面通りの正確な位置に安定してねじを配置することが可能なため、自動組み立てラインとの親和性も高く、生産効率の向上にも貢献します。
基板をミリ単位で正確に固定する必要がある電子機器や、精密な組み立てが求められる光学機器など、高い寸法精度が求められる分野においても、セルフクリンチングファスナーは設計者の強力な味方となるでしょう。
【メリット4】トータルコストはバーリング加工より安くなることも
セルフクリンチングファスナーの導入を検討する際に、懸念点として挙げられるのが「部品コスト」です。
母材の加工のみで完結するバーリング加工に対して、セルフクリンチングファスナーは部品の追加が必要なため、その分の費用が発生します。この点だけを見ると、コストアップに思えるかもしれません。
しかし、製品のコストは部品単体の価格だけで決まるものではありません。設計から製造、そして市場に出た後のメンテナンスやトラブル対応まで、ライフサイクル全体で発生する費用、すなわち「トータルコスト」で評価することも大切です。
例えば、バーリング加工で強度不足のねじを使用した場合で考えてみましょう。もし市場で製品のねじが破損するようなトラブルが発生すれば、クレーム対応や製品の回収、修理に莫大な費用と工数がかかります。さらに、企業のブランドイメージや信頼が損なわれるといった、金銭では換算できない大きな損失を被る可能性もあります。
信頼性の高い部品であるセルフクリンチングファスナーを採用すれば、製品の品質を安定させ、強度不足に起因するさまざまなトラブルを回避できます。その結果、クレーム対応費や保証修理費といった、予期せぬコストの発生を抑制することに繋がります。セルフクリンチングファスナーの部品コストは、こうした将来的なリスクを未然に防ぐための「投資」と捉えることができるのです。
また、加工工程の簡素化によるコスト削減効果も期待できます。バーリング加工後に発生しがちなバリ取り工程が不要になるなど、製造現場の工数削減に貢献する場合もあります。
部品代という目先のコストだけでなく、品質向上による将来的なリスクの低減や、製造効率の改善といった多角的な視点から、その価値を判断することが重要です。
導入事例・活用シーン
セルフクリンチングファスナーは、その高い信頼性と汎用性から多様な産業分野で採用されており、製品の付加価値向上に貢献しています。ここで、具体的な活用シーンをいくつかご紹介します。
ドローン・ロボット分野
軽量化が性能に直結するドローンの筐体や、ロボットアームの構造部材などに、セルフクリンチングファスナーが活用されています。
薄いアルミニウム合金やカーボン複合材にも高強度なねじを設置できるため、機体の軽量化と構造的な信頼性の両立に貢献します。
医療機器分野
精密な組み立て精度が求められる内視鏡や手術支援ロボット、各種検査装置などで採用されています。
加工時の歪みが少ないため、部品を正確な位置に取り付けることができ、機器全体の信頼性を高めます。また、ステンレス製のファスナーは耐食性にも優れ、衛生的な環境が求められる場面にも適しています。
通信・サーバー機器分野
高密度実装が進む5G関連の通信基地局や、データセンターのサーバラックなどで広く使用されています。薄板のシャーシやパネルに、基板や電源ユニットを確実に取り付けるのに不可欠な部品となっています。
一度設置すれば緩みにくいという特性が、24時間365日稼働し続ける機器の安定稼働を支えています。
半導体製造装置分野
クリーンルーム内で使用される半導体製造装置の内部構造部品にも採用されています。バーリング加工で発生する可能性がある金属粉(パーティクル)の発生リスクを抑えられるため、製品の歩留まり向上にも貢献します。
工法を見直して設計の限界を突破しませんか?
セルフクリンチングファスナーは特定の業界に限らず、「軽量化」「薄型化」「高精度化」「高信頼性化」が求められるあらゆる製品開発の現場で、その価値を発揮します。
バーリング加工が持つ「強度不足」「材質の制限」「寸法精度の課題」といった限界に対し、セルフクリンチングファスナーは明確な解決策を提示します。
母材の材質や厚さに依存しない高強度なねじの実現、それに伴う製品の軽量化・薄型化への貢献、そして歪みを抑えた精密な寸法精度。これらは、現代の製品開発に求められる要求に応えるための重要な要素です。
部品コストという初期投資は発生しますが、強度不足による市場トラブルのリスクを未然に防ぎ、製品全体の品質と信頼性を向上させるという視点では、トータルコストの削減に繋がる極めて合理的な選択といえるでしょう。セルフクリンチングファスナーが、設計の限界を突破するための強力な武器となるはずです。
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