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スタッド溶接からの工法転換!セルフクリンチングファスナーがもたらす5つのメリット

製品の組立工程で、「スタッド溶接(溶接ナット)」を多用している製造業者も多いでしょう。
ただ、日々の業務のなかで以下のような課題や悩みを抱えてはいないでしょうか。
- 溶接品質が作業者の技術に左右され、ばらつきが発生する
- スパッタ除去や歪み取り、再メッキなど、後工程に手間とコストがかかる
- 薄板やアルミ素材など、溶接が難しい母材に対応しづらい
- 溶接による熱影響で、焼けや歪みなど外観品質が損なわれる
- 熟練の溶接技術者が減少傾向にあり、将来的な人材確保に不安がある
こうした悩みを解決する一つの方法として、「セルフクリンチングファスナー」という代替工法が注目を集めています。
セルフクリンチングファスナーであれば、溶接を使わずに、安定した品質と効率的な組立を実現できる可能性があるのです。
代替工法「セルフクリンチングファスナー」とは?
セルフクリンチングファスナーとは、強力な圧力をかけて金属板に押し込むだけで母材と一体化し、高強度のねじを立てることができる締結部品のことです。
熱を使って金属同士を溶かして合わせる溶接とは、原理がまったく異なります。セルフクリンチングファスナーの取り付けに、熱や火花は一切不要です。必要なのは、プレス機による圧力のみ。この手軽さと信頼性の高さが、多くの製造現場で注目を集めている理由です。
母材と一体化するしくみについて、もう少し詳しく説明しましょう。
セルフクリンチングファスナーの根元部分には、「ローレット」と呼ばれるギザギザの加工が施されています。プレス機で強い力をかけると、このローレットが母材である金属板に食い込みます。これと同時に、母材の金属が変形(金属流動)して製品の溝やくびれ部に流れ込むことで、締結力を生みます。
この作用によって、ファスナーは母材にガッチリと固定され、軸方向への押し抜きや回転に対して非常に高い強度を発揮するのです。この現象は、金属が圧力によって流れるように変形する「塑性流動」という原理を応用したものです。

▲穴を開けた母材にセルファスナー(パイロット)を挿入し、ローレット部を圧入する。
この工法の最大の特長は、作業者の熟練度を問わない点にあります。溶接のように、電流や電圧、時間、押付力といった多くの変数を管理し、職人の経験と勘に頼る必要がありません。
あらかじめ設定されたプレス圧で押し込むだけで、誰が作業しても常に安定した品質の締結が可能となります。その結果、品質のばらつきを劇的に抑え、不良率の低減に大きく貢献します。
スタッド溶接が「点」で接合するのに対し、セルフクリンチングファスナーは「面」で母材に食い込み一体化するイメージです。この構造的な違いが、後述するさまざまなメリットを生み出す源泉となっています。
【徹底比較】スタッド溶接 vs セルフクリンチングファスナー
スタッド溶接とセルフクリンチングファスナーをさまざまな角度から比較し、その違いを明確にしてみましょう。
| スタッド溶接 | セルフクリンチングファスナー | |
|---|---|---|
| 品質安定性 | △ 作業者のスキルに依存 |
◎ 誰でも安定した品質 |
| 後工程 | △ スパッタ除去、歪み取り等が必要 |
◎ 後工程が不要 |
| トータルコスト | △ 部品は安いが後工程費用がかかる |
◯ トータルコストで優位 |
| 対応母材 | △ 薄板、アルミは不向き |
◎ 薄板やアルミにも対応 |
| 作業環境 | △ 熱、ヒュームが発生 |
◎ 安全でクリーン |
| 外観品質 | △ 溶接痕が残る |
◎ 美麗な仕上がり |
| 設備 | △ 溶接機が必要 |
◯ プレス機で圧入 |
| 生産性 | △ 溶接個所×数秒 |
◯ 1プレス数秒(複数個所の同時プレスも可能) |
この比較表から、セルフクリンチングファスナーが多くの面で優位性を持つことがお分かりいただけるでしょう。各項目について、少し詳しく解説します。
品質安定性
溶接は、その日の気温や湿度、作業者の体調によっても微妙な調整が求められる繊細な作業です。
その結果、締結強度にばらつきが生じることも少なくありません。
一方、セルフクリンチングファスナーはプレス機の圧力とストロークという機械的な数値で管理されるため、原理的に品質が安定します。
後工程
溶接作業に付きまとうのが、スパッタ(溶接中に飛び散る金属粒)の除去や、熱による母材の歪み取りです。
これらは手作業で行われることが多く、多大な時間と人件費を要します。
セルフクリンチングファスナーは熱を使わないため、これらの後工程が一切発生しません。
トータルコスト
部品単体の価格だけを見れば、スタッド溶接の方が安価な場合もあります。
ただし、スタッド溶接は後工程の人件費、不良品の廃棄コスト、再メッキなどの追加費用が発生します。
製造にかかるトータルコストで比較すると、セルフクリンチングファスナーの方が経済的に優位となるケースが多いのです。
対応母材
高熱を伴う溶接は、薄い金属板(薄板)を溶かしたり大きく歪ませたりするリスクがあります。
また、融点が低く、酸化被膜が問題となるアルミニウムへの溶接は特に高度な技術を要します。
その点、セルフクリンチングファスナーは熱を使わないため、t0.5mmの極薄板やアルミ、さらには塗装済み鋼板にも問題なく取り付けることが可能です。
作業環境と外観品質
溶接作業では、火花、ヒューム(有害な煙)、強烈な光が発生し、安全対策が不可欠です。
また、製品表面には必ず溶接焼けや痕が残ります。
セルフクリンチングファスナーの作業は、プレス機による圧入のみ。火花もヒュームも発生せず、安全でクリーンな環境を保てます。
取り付け面はフラットで美しく、製品の外観品質を損ないません。
セルフクリンチングファスナーがもたらす5つのメリット
上記の比較表で明らかになった優位性は、製造現場において具体的かつ強力な5つのメリットとなって現れます。
ここでは、それぞれのメリットがなぜ生まれるのか、そして貴社のビジネスにどのような好影響を与えるのかを詳しく解説します。
【メリット1】品質の安定化と不良率の低減
製造業において、品質の安定は至上命題です。特に、製品の安全性や信頼性に直結するねじ締結部の品質は、決して妥協できません。
スタッド溶接の場合、前述の通り品質が作業者のスキルに大きく依存します。熟練の作業員であれば安定した品質を保てるかもしれませんが、新人や経験の浅い作業員では、強度不足や溶接不良を引き起こす可能性があります。
また、同じ作業者が行っても、集中力の低下などにより品質がばらつくリスクは常に付きまといます。これは、完成品の不良率を高め、手戻りや再検査といった無駄な工数を発生させる直接的な原因となります。
一方、セルフクリンチングファスナーは、この「人のスキルへの依存」という課題を根本から解決します。取り付けに必要なのは、規定の圧力でプレスすることだけ。作業者は部材をセットしてボタンを押す、あるいはフットスイッチを踏むだけで、常に均一な品質のねじ立てが完了します。
取り付け強度(押し抜き強度、回り止めトルク強度)は、部品の設計と母材の硬度、そしてプレス圧によって決定されます。つまり、作業者の経験や勘といった不確定要素が入り込む余地がほとんどないのです。
その結果、誰が作業しても同じ品質を維持できます。これは、製品全体の品質を底上げし、不良率を大幅に低減させることに直結します。不良品の削減は、材料費や加工費の無駄をなくし、企業の収益性を改善する上で極めて重要な要素です。
【メリット2】トータルコストの削減
製品のコストは、部品の材料費だけで決まるわけではありません。そこには、加工にかかる人件費、設備費、さらには後工程の費用や不良品のコストなど、目に見えにくいさまざまな費用が含まれています。
例えばスタッド溶接の場合、以下の費用も製造コストに含まれます。
- 溶接工程の人件費:スタッドを治具にセットし、一つひとつ位置決めをして溶接する作業。
- 後工程の人件費:溶接後に発生するスパッタをグラインダーなどで除去する作業。熱で発生した歪みをプレス機やハンマーで修正する作業。
- 追加外注費:溶接焼けを取るために、再メッキや再塗装が必要になった場合の外注費用。
- 不良対応コスト:強度不足による不良品が出た場合の廃棄コストや作り直しのコスト。
- 設備維持費:溶接機の定期的なメンテナンス費用や、電極チップなどの消耗品費。
これらの費用は、部品代に上乗せされる「見えないコスト」です。
セルフクリンチングファスナーに転換すると、これらのコストの大部分を削減できます。後工程であるスパッタ除去や歪み取りが一切不要になるため、その作業に費やしていた人件費は丸ごと削減されます。
再メッキも不要です。品質が安定し不良率が低減すれば、無駄な材料費や作り直しの工数もなくなります。
部品単価に多少の差があったとしても、これらの後工程や不良対応にかかるコスト削減効果は非常に大きく、製品一つあたりのトータルコストで比較した場合、多くの場合でセルフクリンチングファスナーに軍配が上がります。
工法転換は、製造プロセス全体を見直し、潜在的な無駄を洗い出す絶好の機会でもあるのです。
【メリット3】設計自由度の向上(薄板・軽量化への貢献)
製品開発において、軽量化や薄型化は永遠のテーマです。特に、精密機器や輸送機器の分野では、製品の付加価値を大きく左右する重要な要素となります。しかし、スタッド溶接では、この軽量化・薄型化の要求に応えるのが困難な場合があります。
その理由は、溶接の熱にあります。例えば、t1.0mm以下の薄板にスタッドを溶接しようとすると、母材が熱に耐えきれずに溶け落ちたり、大きな歪みが発生したりするリスクが高まります。また、融点の低いアルミニウム材への溶接は、そもそも技術的なハードルが非常に高いのが実情です。
このため、設計者は強度を確保するために、本来必要以上の板厚を選んだり、より重い鉄系の材料を使わざるを得なかったりするケースがありました。
セルフクリンチングファスナーは、この設計上の制約から技術者を解放します。熱を使わない圧入方式のため、母材に熱の影響を与えることがありません。その結果、
- 薄板への対応:製品によってはt0.5mmといった極薄板にも、十分な強度を持つねじを立てることが可能です。これにより、筐体全体の板厚を薄くでき、製品の大幅な軽量化・薄型化が実現します。
- アルミ材への対応:溶接が困難なアルミニウムやその合金にも、何の問題もなく高強度のねじを取り付けられます。軽量素材であるアルミのメリットを最大限に活かした製品設計が可能になります。
- 塗装済み鋼板への対応:通常、溶接は塗装後には行えません。しかし、セルフクリンチングファスナーであれば、塗装やメッキ処理が施された後からでも取り付けが可能です。これにより、製造工程の順序を最適化し、リードタイムの短縮にも繋がります。
このように、従来工法では不可能だった、あるいは困難だった設計を可能にするのが、セルフクリンチングファスナーがもたらす大きな価値の一つです。
【メリット4】生産性の向上
製造現場の生産性を向上させるには、一つひとつの作業時間を短縮するだけでなく、工程全体の流れをスムーズにすることが不可欠です。セルフクリンチングファスナーは、この両面から生産性向上に貢献します。
まず、取り付け作業そのものが高速です。プレス機を使えば、1ストロークで1つのファスナーの圧入が完了します。位置決めも容易で、専用の治具を使えば誰でも素早く正確に作業を進められます。複数のファスナーを同時に圧入できる専用機を導入すれば、生産性はさらに飛躍的に向上します。
しかし、本当のインパクトは、後工程がなくなることによるリードタイムの短縮にあります。溶接の場合、「溶接 → スパッタ除去 → 歪み取り → (場合によっては)再メッキ」と、工程が多段階に分かれます。工程間での運搬や仕掛品の滞留が発生し、これがリードタイムを長期化させる大きな要因となっていました。
セルフクリンチングファスナーであれば、「プレス加工(圧入)」で締結工程が完了します。その後の面倒な手作業は一切ありません。部品はすぐに次の組み立て工程に回すことができます。
工程数が減り、流れがシンプルになることで、仕掛品在庫の削減や生産計画の精度向上といった効果も期待できます。これは、製造ライン全体の効率化と、短納期対応力の強化に直結する、非常に大きなメリットと言えるでしょう。
【メリット5】作業環境の改善
企業の社会的責任として、また、優秀な人材を確保・定着させる上で、安全でクリーンな作業環境の整備はますます重要になっています。
溶接作業は、いわゆる3K(きつい、汚い、危険)のイメージが根強い職場の一つです。作業中は、以下のようなリスクに晒されます。
- 火傷のリスク:高温の溶接部や飛び散るスパッタによる火傷。
- 火災のリスク:火花が引火性の高いものに燃え移る危険性。
- 健康被害のリスク:溶接時に発生するヒューム(金属が蒸発して固まった微粒子)の吸い込みによる呼吸器系疾患。
- 眼へのダメージ:溶接時の強烈なアーク光による視力障害。
これらのリスクを回避するため、作業者は防護マスクや遮光メガネ、革手袋といった重装備を身につけ、局所排気装置などの設備も必要不可欠です。
セルフクリンチングファスナーへの工法転換は、これらの問題を一挙に解決します。圧入作業には火も熱も使いません。
したがって、火傷や火災のリスクはゼロです。有害なヒュームや強烈な光も発生しないため、作業者は重々しい防護服から解放され、より安全で快適な環境で作業に集中できます。その結果、労働災害のリスクが低減するだけでなく、作業者の身体的・精神的負担も大幅に軽減され、従業員満足度の向上にも繋がります。
また、発塵が少ないため、クリーンルーム内での作業が求められる半導体製造装置や医療機器の分野でも安心して採用できる点も、大きな利点です。
導入事例・活用シーン
セルフクリンチングファスナーは、その優れた特性から、既にさまざまな業界で広く採用され、製品の品質向上やコストダウンに貢献しています。
どのような製品や用途で活用されているか、その一部をご紹介します。
半導体製造装置・通信機器
精密な制御が求められる半導体製造装置や通信機器の装置では、筐体や内部の板金部品に数多くのねじが使用されます。溶接による熱歪みは、部品の精度を損なう致命的な問題になりかねません。
その点、熱影響を与えないセルフクリンチングファスナーは、寸法精度を維持したい精密板金部品に最適です。また、ノイズ対策で多用されるアルミ筐体へのねじ立てにも、この工法は欠かせません。
医療機器・計測機器
清潔さが求められ、外観品質も重視される医療機器の筐体やパネルでは、溶接痕が残らない美麗な仕上がりが高く評価されています。
また、作業環境がクリーンであるため、組み立て工程全体の清浄度を保ちやすい点も採用理由の一つです。
自動車・鉄道車両
軽量化が燃費性能に直結する輸送機器分野では、アルミ材の活用が積極的に進められています。
セルフクリンチングファスナーは、アルミボディや内装部品の締結に広く利用されています。プレスラインに圧入工程を組み込むことで、高い生産性を実現しているケースも少なくありません。
金融端末(ATMなど)・アミューズメント機器
メンテナンスで開閉するカバーやパネル部分に多用されています。
後工程が不要で、安定した品質を大量生産できる点が、コストと品質の両立が求められるこれらの製品に適しています。
工法見直しで、品質とコストの課題を解決しませんか?
溶接作業で発生しがちな「品質のばらつき」「後工程の手間とコスト」「作業環境の問題」といった課題は、多くの製造現場が抱える共通の悩みです。セルフクリンチングファスナーは、これらの課題に対して、熱を使わず圧力で締結するという全く新しいアプローチで、明確な解決策を提示します。
品質の安定化による不良率の低減、後工程の抜本的な削減によるトータルコストダウン、そして薄板やアルミ材への対応力向上による設計の自由度拡大。これらのメリットは、貴社の製品競争力を高め、収益性を改善する上で大きな力となるはずです。工法の見直しは、時に大きな決断を伴いますが、その先には大きな改善効果が待っています。
もし、現状の溶接工程に少しでも課題を感じていらっしゃるなら、一度セルフクリンチングファスナーの導入を検討してみてはいかがでしょうか。「まずは試作品で強度を確かめたい」「自社の図面に適用できるか相談したい」といったご要望にも対応いたします。お気軽にお問い合わせください。
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